コロナ禍の日常
令和3年1月7日、首都圏の1都3県に2度目の緊急事態宣言が発令されました。
新型コロナウイルス感染症患者の増加に伴い、中等症、重症の患者の治療を担う医療従事者への負担、そして病床数の逼迫は大きな要因です。
去年の4月の1度目の全都道府県への緊急事態宣言で、患者数が減少している時に、医療従事者および病床の確保対策を、国、県、医療従事者それぞれの立場でもう少し突っ込んだ話し合いをして具体策をとっていれば、医療崩壊の危機が起こるような状況は阻止できていたかもしれません。
高知県も含めて医療崩壊の危機については、諸先生方がいろいろ対策を述べられているので、ここでは新型コロナウイルス感染症について現在までにわかっている基本的なことをおさらいします。
発症から1週間程度は発熱や咳などの風邪症状が続き、そのまま治っていく患者が全体の80%程度とされます。味覚、嗅覚障害を伴っている場合もあります。20%の人は呼吸困難や咳などで、肺炎症状が悪化し、中等症、重症患者として入院対象になります。高齢者や糖尿病、高血圧、慢性腎臓病などの基礎疾患のある人、肥満の人、喫煙歴のある人、悪性腫瘍のある人、妊婦などが重症化しやすいといわれています。このため感染しても80%の人が無症状か、もしくは風邪症状で治ってしまうため、「新型コロナウイルス感染症は季節性のインフルエンザよりもたいしたことない」と言う人もいます。
しかし、基礎疾患のない若者でも急速に悪化することがあります。潜伏期間が長く、発症の2日前から感染源になる可能性があり、発症してウイルスを排出していても無症状のことが多いなどインフルエンザ以上に厄介です。
新型コロナウイルス感染症の合併症で、致死率との高い関連性があるものに、肺塞栓症や脳梗塞などの血栓塞栓症があります。重症例において特に血栓塞栓症との併発が多くみられます。治ったと思った後も、後遺症によってその後の生活にまで支障を来すことがあります。
重症者だけではありません。若い世代でも、倦怠感や呼吸苦の症状のほか、関節痛、味覚・嗅覚障害、めまい、聴覚障害、なかには脱毛などの報告もあります。インフルエンザでのタミフルやイナビルのように、感染があったらすぐ投与すれば治るような特効薬はありません。
今のところ飛沫感染や接触感染の予防には、手洗い、手指消毒を徹底し、マスク着用が有効です。
ワクチンができ、治療薬が揃うまでは、三密を避け、会食を控え、個人個人が自分の行動を律するという「新しい生活様式」を継続するしかなさそうです。
(ナウ・レッツ・ビギンより)
喫煙者は不採用になる時代がきています!
受動喫煙対策を徹底する改正健康増進法が昨年七月に成立しました。
これにより国や都道府県などが、受動喫煙防止の周知・啓発をはじめ、今年の7月1日から学校や病院、行政機関などの敷地内が全面禁煙になります。厚生労働省の基本的な考え方は、受動喫煙による健康被害が大きい子供、患者などに特に配慮した、「望まない受動喫煙」をなくすというものです。
「望まない受動喫煙」をなくすだけでは手ぬるいと考えた大学が現れました。これからの内容はネット記事からの引用です。長崎大学は、禁煙対策の強化として、教職員の就業時間内の喫煙を禁止すると共に、今後の新規採用にあたり喫煙者を採用しない方針を示しました。教職員がタバコを吸って自分の健康を害するだけでなく、学生はやはり教員の背中を見ていて、教育の場としては、喫煙者は相応しくないと結論付けました。こうした基準を設置するのは、国立大学としては全国初の試みだそうです。この方針にはやはり賛否両論が沸き起こりました。「差別だ。人権侵害だ。」という批判の声が上がる一方、「タバコは嗜好ではなく依存症を引き起こす」、「医療従事者を養成する大学として当然」という賛同の声も寄せられました。
「タバコを吸う、吸わないは個人の嗜好であり、大学が踏み込む問題ではない」という反論に対して憲法の立場からある弁護士が語っていました。「喫煙権」は人権なのか。受動喫煙の問題と同時に、タバコを吸った後も30~45分間は喫煙者の息から有害物質が吐き出されることや、服やカーテンなどに残ったタバコ残留物から有害物質を吸い込んでしまう「三次喫煙」の問題も指摘されています。それが原因で喘息発作を起こす人もいます。この点が「単なる嗜好の問題」とは言えないところの難しさです。大学には未成年の学生もいます。大学側には全ての方に健康なキャンパスライフを保障する責任があるわけです。その責任からすると、喫煙者を採用しないことで憲法違反の判決は出にくいように思うと指摘しています。さらに、個人的には、喫煙権の問題は、人権そのものというよりも、個人的な嗜好であり、個人生活上の利益として存在している。喫煙者を採用しないという問題も、大学の裁量権の問題であり、裁量権の逸脱や濫用がなければ違法にならないのではとまとめています。
5月31日は「世界禁煙デー」でした。WHOが世界の人々の健康のために禁煙を推進するために設けた日だそうです。何はともあれ喫煙者を取り巻く環境は厳しくなっているのは間違いない。
喫煙者のなかでも特に、小さなお子さんがいる親御さんはこの際禁煙してみてはいかがですか。
(ナウ・レッツ・ビギン№346より)
予防接種(ワクチン)について
皆さん、「VPD」という言葉をご存知ですか。「VPD」とは「ワクチンで防げる病気 Vaccine(ワクチン)Preventable(防げる)Diseases(病気)」のことです。VPDは誰にでもかかる可能性があり、いったんかかってしまうと、病気を確実に治療する方法はありません。
乳幼児期は免疫(病気に対する抵抗力)が未発達なため、さまざまな感染症にかかります。そして感染していくことで免疫をつけながら成長していきます。総合的な免疫力を比較すると、生まれてすぐが一番弱く、6か月過ぎになると少しずつ強くなってきますが、2歳くらいまでは弱いままです。そのため、たとえば、肺炎球菌やヒブ菌などの菌が簡単に子供の免疫システムを通り抜けて、敗血症や細菌性髄膜炎など重大な病気を起こしやすいのです。麻疹(はしか)や百日咳なども、年齢が低いほど重症になりやすい病気です。免疫力が弱い子供たちがVPDにかかって重症化するのを防ぐ助けになるのが、ワクチンなのです。 一人でも多くの子供たちが予防接種を受けられるようにすることがとても重要です。
(ナウ・レッツ・ビギン№225より)
1歳半健診に出向いたときのことです。20数人の1歳6か月前後の子供たちとその保護者が多く来場していました。ひと通りの内科診察をして、発達の遅れがないか、心配事がないかなどを聞くことにしていますが、私は必ず母子手帳のワクチン欄を見て接種が順調に進んでいるかもチェックするようにしています。
ある患者さんの母子手帳のワクチン欄を見ると全く記載がないことに気付いたので、てっきり母子手帳を紛失して新しい手帳を再交付してもらったために過去のワクチン接種歴が失われているものと思ってお母さんに確認しました。するとこれまで全くワクチンは接種しておらず、今後も接種する予定もないとのことでした。お母さんに接種しない理由を尋ねたところ、副作用が心配とのことでした。もともとかかりつけの先生はいらっしゃるはずで、その先生も未接種のことは把握されているはずですので、私からあえてしつこくは言いませんでした。「はしかに罹って死ぬこともあるし、命が助かっても後遺症で苦しむことはあります」旨の話だけさらっとしておきました。たぶん両親は確固たる信念のもとに、わが子にワクチンを接種させないことを決めておられるのでしょうから、私が時間をかけて説得しても無駄だろうと思いました。
副作用で困る確率と実際にその感染症に罹患して苦しんだり、命を落としたり、後遺症を残したりする確率を比較すると、後者の確率がはるかに高いはずです。副作用もゼロではありませんので、ゼロでないと気が済まない保護者にはワクチンは受け入れられないかもしれません。ただ冷静に上記の確率論から考えると、やはりわが子にはワクチンを接種するべきで、防げるものは防ぐべきだと思います。ワクチンなしでこれから生きていこうとする子供さんが、恐ろしい感染症に罹らず、健やかに成長されることを切に望んだことでした。
(ナウ・レッツ・ビギン№275より)
ワクチンって、病気が流行らなくなればもう要らないのでは?
過去のワクチン中止により百日咳で113人が死亡
今、日本では、予防接種法という法律に基づき、子どもに麻疹(はしか)やジフテリア、ポリオなどのワクチンを接種することが勧奨されています。「まわりにそんな病気の患者さんはいないのに、なぜワクチンを使わなくてはならないの?」とよく聞かれます。これらのワクチンで防げる感染症(VPD)は、国内はもとより、海外でも根絶されたわけではありません。今、VPDの多くは、ワクチンの接種率が高く保たれているために患者が出ていないだけで、予防接種をする人が少なくなれば必ず再流行します。
分かりやすい例を挙げると、日本では昔、百日咳により赤ちゃんや子どもを中心に毎年10万人以上の患者が発生し、1万人以上が亡くなっていました。1960年代後半、百日咳に対するワクチンが広く接種されるようになってからは患者数が激減し、ほとんど見られなくなりました。しかし1970年初め、百日咳ワクチンを接種した後、2人の赤ちゃんが亡くなりました。当時は「百日咳はもはや過去の病気なのに、国がワクチンを勧めたせいで赤ちゃんが死んだ」と大きく報道され、国民は不安に陥りました。国はこれを受け、百日咳ワクチンの子どもへの接種を数年間中止します。すると、百日咳の患者数は年間約1万人を超え、死亡者は年間20~30人に増えました。
百日咳ワクチン接種の後に亡くなった2人の赤ちゃんは本当に気の毒です。でも、専門家の間では、ワクチンが死亡の原因だったのかは非常に疑問と考えられています。一方で、ワクチンが再開されるまでの間に113人が百日咳のために亡くなりました。国や自治体が予防接種の制度を中止すべきなのか、あるいは保護者が自分の子どもにワクチンを接種するかを判断するには、ワクチン接種の中止により百日咳による死者が113人に増えた事実と、2人の死亡との両方を考えないとなりません。
年間260万人がワクチンで防げる感染症で死亡
また、最近の日本でも、予防接種率の上昇によって国内での流行がなくなった麻疹(はしか)が2014年1月、流行地のフィリピンから持ち込まれ、多くの地域で予防接種前の1歳未満の赤ちゃんや、2回のワクチン接種を済ませていなかった人の間で流行しました。
毎年、世界で700万人近くの5歳未満の子どもが感染症で死亡しており、そのうち260万人は、ワクチンが届かないためにVPDで死亡しています。一方、ワクチンの接種率が高い国では、過去に年間数千~数万人の患者や死者を出していたVPDの患者が激減していることを忘れないでほしいと思います。
(ナウ・レッツ・ビギン№320より)
まだ新型コロナウイルスにかかってない?
令和4 年8 月16日のBBCニュース日本語版に、まだ新型コロナウイルスにかかってないのは何が理由なのかを考える発表があった。お互いマスクをして、手洗い、うがいをして、他人との距離をとる生活を励行している日本人にとって、日本の先を進んでいるイギリスからの発表で、興味深く、ほぼ全文を紙面に載せます。
新型コロナウイルスのパンデミックが始まって約2年半がたったが、あなたの家族や友人の中にも、まだ感染していない人たちがいるだろう。そうした人たちは、何か特別な力をもっているのだろうか。実際には全くの運だったり、簡単な科学で説明がついたりする。考えられる5
つの理由を説明する。
第一は運
未感染なのは30カ月間運がよかったから。あり得ないと思いますか。世界にはさまざまな人がいますし単に幸運な人もいるのです。
第二はウイルスの広がり方
ウイルスには宿主が必要で宿主がいなくなればウイルスも死にます。新型ウイルスが多くの人に感染した結果、新たな宿主に行き着く前に力尽きている可能性もあります。これも運ですが科学的な説明でもあります。
第三はワクチン
3 つ目は明白な可能性のあるワクチンです。ワクチンで得た抗体はウイルスが体内に入ったとたんに攻撃を始めます。これによって感染が広がりにくくなり病状の悪化も防げます。しかしワクチンの感染予防効果は時間と共に低下しますし、新たな変異株は防御をすり抜けやすくなっています。接種直後に感染しなかった理由はこれで説明できますが、ただパンデミック中ずっと感染を防げるわけではありません。
第四は自然免疫
新型ウイルスにさらされても必ず感染するとは限りません。ウイルスが大量複製される前に身体がやっつけてくれる場合があります。自然免疫と呼ばれる人体の最初の防衛線です。しかし自然免疫の反応は人によって違います。その理由はわかっていません。免疫系は非常に複雑で分かっていないことも多いのです。
第五はすでに感染している
これの可能性が一番高いでしょう。新型ウイルスに感染したかなりの人が無症状か、とても軽い症状でした。新型ウイルスに感染しても無症状で検査の必要を感じなければ感染したことに気づかないでしょう。しかし他の人に感染させることはあります。本当にまだ新型ウイルスに感染していないならあなたは確かに幸運です。重症化し得る病気だからです。しかしパンデミックはまだ終わっていません。BA
4 やBA 5 といった変異株は過去の感染やワクチンで得た抗体をすり抜けやすくなっています。最終的には恐らく私たちほぼ全員が新型ウイルスに感染するでしょう。大切なのは重症化させないことです。
(ナウ・レッツ・ビギン№385より)